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飛騨にありて福島を思う

南会津の木地師・後編

お椀やお盆の材料となる良質な木を求め、山から山へと移り住んだ流浪の民木地師について。今回は後編。いよいよ福島県会津にいた木地師に迫る。

(前編はこちら↓)

monono-aware.hatenablog.jp

 

 

さて、南会津木地師と銘打ってはいるが、木地師誕生の地・近江から福島県会津地方への木地師の動きから見ていこうと思う。

 

1590年に豊臣秀吉により行われた奥州仕置で、蒲生氏郷という武将が会津若松城の城主となった。ここで早速木地師の郷、近江が登場する。蒲生家は代々、近江日野(現在の滋賀県蒲生郡日野町)の城を本拠としており、ここもまた木地師漆器などの塗師が多く排出される土地だった。氏郷は会津木地師塗師を招聘し、城内に住まわせ、作業にあたらせた。これが伝統工芸・会津塗りの起源と言われている。

 

しかし、やがて材料となる原木が伐りつくされると、木地師たちは周辺の山々へ移っていったという。ここから南会津への移動が始まる。

 

まず彼らは、城下に流れる湯川と言う川沿いに進み、今の天栄村湯本にたどり着く。二岐山や大白森山などの山々に囲まれ、標高も高かったこの地は、材料となる木に恵まれていたようだ(ちなみに天栄村の公式キャラクター「ふたまたぎつね」は二岐山をモチーフにしている)。

 

木地師は一つの地に留まると、里の人々と様々な取り決めを交わし、持ちつ持たれつの関係となる。具体的には、木を伐っていい範囲や樹種、伐採にかかる代金、木地輸送委託契約(木地を山中から町まで運ぶ役割はもっぱら里人が担った)など。入植者によって新たな仕事が生まれたため、里の人々にとっても悪いことばかりではなかったことだろう。こうして山と里、漆器の産地である会津若松を結ぶ交易ルートが出来上がっていった。

 

その後、湯本の木地師集団の一部が、現在の南会津町針生へと移り住んだ。この地もまた、豊富な森林資源に恵まれた地であったことは、今の南会津の山々を見れば容易に想像できる。この地ではおよそ150年から200年もの間、木地師が生活を送っていたという。最終的には、同じ南会津の高杖に定住し、ここで南会津木地師の歴史は幕を閉じる。今では、奥会津博物館で木地師の生活の一端を伺うことが出来るようだ。

 

今でも山の中には、木地師たちの墓石や彼らの作ったと思われる石仏が点在しているらしいが、ググっても詳しくは出てこない。いずれ誰からも忘れ去られてしまうのはとてももったいない。一度、木地師の足跡をたどる旅をしてみようと思う。

 

会津若松から南会津へ至るまでの道のりも、辿ってみると面白いだろう。湯川を上っていくと会津布引山に着く。風力発電風車群で有名な布引高原だ。

www.tif.ne.jp

 

初めの定住地である天栄村湯本は、岩瀬湯本温泉二岐温泉で有名ないで湯の郷。二岐山登山と併せて楽しめるだろう。

二岐山は標高1544mの双耳峰の山。かつては単独ピークの山だったが、この地にいたダイダラボッチという大男がこの山を跨ぐときに股間をぶつけて双耳峰になったとか。

www.tif.ne.jp

www.tif.ne.jp

 

南会津町針生地区には、国天然記念物の駒止湿原がある。春はミズバショウ、夏はニッコウキスゲなどの花が美しい高層湿原だ。何気に僕自身の原体験の場所になっている。この話はまた別の機会に。

www.tif.ne.jp

また、この針生と、最後の定住地・高杖はスキー場でも有名で、山奥ながらウインターシーズンには多くの観光客でにぎわう。あと高原なのでソバ畑もいっぱい。

daikura.net

takatsue.jp

 

また、前回記事で、滋賀県の当時「小椋谷」と呼ばれていた地域が木地師発祥の地と書いたが、その時惟喬親王の家臣に小椋、大蔵姓がおり、その末裔が全国にいる。この会津高杖には、「株式会社オグラ」という家具製作から住宅建築まで手掛ける会社があり、代表である小椋寿光さんはやはり代々木地師の家系だったそうだ。

森と生きることを大切にしているこのお店。一度行ったことがあるが、とても素敵な場所だった。おすすめ。

www.lc-ogura.co.jp

 

なんだか最後は本来の趣旨から外れてしまったが、木地師という職人集団とその暮らしぶり、里や町との交流については興味が尽きることが無い。会津を南北につなぐシルクロードならぬウッドルートが存在していたとは。

そもそも木を加工して作るなら、森の国福島県内の別の場所にも、彼らはいたのではないかと想像してしまう。それが近江から来た者なのか、はたまた自然発生的に生まれた存在なのか・・・これからも折を見て調べ続けてみようと思う。

 

(どなたか、南会津木地師集落について詳しい方がおりましたら、ぜひ教えてください!)

 

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