コロナで消えた風景
猪苗代湖の風景の一部と言っていい、白鳥と亀をかたどった遊覧船。
今日、表磐梯、裏磐梯で湖上観光船を運営する「磐梯観光船」が公式ツイッター上で、廃業を発表した。
4月より休業をしておりましたが、営業再開を断念し、本日をもちまして廃業する事となりました。
— 磐梯観光船 (@bandaikankousen) June 15, 2020
最後にもう一度だけでも、船を走らせたかったのですが叶える事は出来ませんでした。
昭和34年の会社設立より長きにわたり 多くのお客様にご乗船いただきまして心より感謝いたします。有難うございました。 pic.twitter.com/oTH8i5f9l8
知らせを聞いた瞬間から、しばらく言葉が出なかった。
「はくちょう丸」と「かめ丸」は、猪苗代湖と磐梯山と併せて、表磐梯のシンボルの一つだった。猪苗代湖が見えてくれば、そこに白鳥と亀がいる。僕が小さいころからそうだったし、これからもずっとあり続けるものだと思っていた。
廃業のツイートには、まるで2隻を弔うかのように、はくちょう丸とかめ丸にまつわる思い出のツイートが寄せられている。この船がいかに多くの人に愛されてきたかが容易に伺える。
4月に休業を開始してからも、公式ツイッター上では磐梯高原の美しい風景や、同時期の過去の写真がツイートされ続けてきた。誰よりも営業再開を待ち望んでいたのは、ほかの誰でもない磐梯観光船の皆様だったことだろう。
営業する側も水上を走らせたいと思っていたし、観光する側もいち早く乗れる日を待ち望んでいた。しかし、表磐梯の風景は失われてしまった。もう乗れないだけではない。2隻を見ながら昔あれに乗ったなあと、思い出を語ることもできない。
僕が乗ったのは記憶もないくらい小さいころだったと思う。大人になってからも、はくちょう丸とかめ丸を見るたびに、昔はあれに乗ったこともあったんだなと、思いを馳せてきた。
新型コロナウイルスの影響で、廃業を余儀なくされた企業は少なくない。全国各地で、文化や風景の消失が発生している。そして、一度消えた文化と風景は、元通りにするのは難しい。それは震災と原発事故以来、嫌というほど思い知らされてきた。
消費者も生産者も、思いは同じなのに叶わない。叶えることが出来ない。そういう時こそ、国が前面に出ていかなくてはならないのではないか。
新規感染者数だけでは、この状況の好転、悪化を語ることは出来ない。そこをきちんと理解したうえで、国には十分な対応を求めたい。
はくちょう丸とかめ丸をはじめとする磐梯観光船の遊覧船には、改めて感謝の意を表したい。運航は出来なくとも、何らかの形で残ってほしい。そして、いつの日か再び猪苗代湖を進む船の姿を見れることを願っている。今までお疲れ様。本当にありがとう。