安全だから避難指示解除している
以下の文章は、避難指示が解除された地域の放射線量は十分安全な値である、ということを、僕の主観で書いたものである。
断っておくと、放射線の健康被害に関するデータの蓄積はまだまだ十分でなく、数少ない前例から推定するしかないのが現状である。
しかし、僕自身は、現時点で示されているデータはある程度信用してもいいと思っているし、それを基にして前へ進むことが、人類が問題を解決する方法だと思っている。「巨人の肩の上に立つ」ということだ。
被災地は、解決方法のない問題に直面しているという現実を、まずは理解していただきたい。
本題に入ると、本当に当たり前のことなのだが、放射線量が基準値まで下がったから、避難指示が解除されたのである。各地のモニタリングポストの値は極めて低い数字ばかりであった。
たとえば、2020年3月10日に避難指示が解除された、富岡町のJR常磐線夜ノ森駅周の空間線量は0.27μSv/h(2020年3月19日15時時点・夜ノ森駅前南集会所)。
極端な例を示そう。この地点に24時間365日滞在するとした場合、その年間被ばく量は
0.27×24×365=2,365μSv≒2.4mSv
加えて、日本で生活している場合、誰でも年間2.1mSvの自然被ばくがあるという。
これを加味しても年間4.5mSvだ。
ここで、国が示す避難指示解除の条件は、以下の通りとなる。
(環境省HPより https://www.env.go.jp/chemi/rhm/h29kisoshiryo/h29qa-09-23.html)
①推定年間被ばく量が20mSv以下と見込まれる。
②インフラや公共サービスがおおむね復旧している。
③県、市町村、住民が十分に協議する。
①の年間20mSvという数字を大きく下回っているのがお分かりだろうか。
ちなみにこの避難指示の基準となる値は、20mSvから100mSvの間で国が定めると国際的に取り決められている(ICPR勧告)。日本の基準値は、世界で最も厳しい。ちなみに年間20mSvとは、先ほどの24時間365日滞在の計算方法で行くと、約2.3μSv/hに相当する。
「いやいや、年間20mSvが安全という根拠は何!?」という声も聞こえてきそうだ。これはごもっともである。
ぶっちゃけると、根拠をはっきりと言えるほど、科学的因果関係が証明されていないのが現状だ。
でも冒頭に述べた通り、原子力災害によるデータの蓄積はあまりにも少なく、完璧な根拠は存在しない。それでも、僕たちは先人の積み重ねという偉大な遺産を利用して、今の自分たちの生活と天秤にかけて判断していくことが出来るし、それしか判断材料はない。原子力災害とは、未知との戦いなのだ。
そのうえで、以下のURLから「各地方 環境放射能測定結果」を見ると、年間20mSv、つまり2.3μSv/hに相当する数字は、避難指示解除された地域には全く見られないことがわかる。たいていが、0.何とかμSv/hという数字で、そもそもの数字の次元が違うのだ。20mSvの安全性の根拠が乏しいとしても、もう十分安全と言っていいのではないか。
https://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/ps-kukan-monitoring.html
放射性物質に関する「ものさし」を一つ提供しよう。「半減期」というものがある。
放射性物質は、放射線を出すことで安定的な物質になっていく(=安全になっていく)。このようにして、放出する放射線の量が初めの半分になるまでの時間を、半減期という。
つまり、長期的には放射線の量は何もしなくても減っていくのだ。夜ノ森駅周辺の0.27μsV/hという数字はこの地点で取りうる最大値であり、ここから下がっていく一方である。
具体的には、原発事故で放出された放射性物質の大勢を占めるのが「セシウム134」と「セシウム137」だ。
セシウム134の半減期は約2年、セシウム137の半減期は約30年。つまり事故から2年たった時点でセシウム134がまずガツンと減った。さらに2年たてばまた半分、さらに2年でまた半分・・・セシウム134は限りなく減少した。
セシウム137はまだまだだろうが、減っていくのは科学的に間違いない。しかも、この自然減に加えて、汚染土壌の剥ぎ取り、つまり「除染作業」によって放射性物質をどんどん減らすことが出来た。
(この土壌がどこへ行くのかは・・・↓)
・・・長くなってしまったが、要するに、放射性物質の量は、常に減少しており、下がり目しかないということだ。
さらに、もう一つものさしを。
1回の医療用CT検査の被ばく量は5mSv~30mSvだ。
繰り返す。5mSv~30mSvだ。
(国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構HPhttps://www.qst.go.jp/site/qms/1889.html)
避難指示の解除された富岡町夜ノ森駅周辺で24時間365日野宿することで被ばくする量を、1回のCT検査で優に上回るのだ。
福島をいまだに汚染された場所、危険な場所と思っている人は少数派になったが、まだ一定数いることだろう。そういう人たちはCT検査のほうを恐れた方がいい。
こういった数字やものさしを総合的に勘案すると、上記の夜ノ森駅周辺の、自然被ばくを加味しても年間4.5mSv(しかも24時間365日そこにいるというありえない条件下)という数字は、復興のスタートラインに立つには十分安全な値だといえるだろう。
(何なら、この場所で僕自身が寝泊まりして証明したっていい。地域の迷惑にさえならなければ。)
問題は、復興に向けた条件が厳しいということだ。これについては次回。