もののaware

飛騨にありて福島を思う

トリチウム水は福島だけの問題か

とうとうタイムリミットが示された。

福島第一原子力発電所で発生する汚染水から放射性物質を取り除いた「処理水」を保管するタンクが、2022年には満杯になってしまうという(以下リンク先 ニュース)。

https://news.livedoor.com/article/detail/17941819/

いずれ一杯になることはわかってはいたけで、ついにこの時がきたか・・・

正直言って、国民の認識も議論も、まだまだ足りていないだろう。

https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/arti

まず「汚染水」とは何か。

地震津波発電所内の電源が失われ、燃料棒を冷やせなくなり、燃料棒自身が発する熱で溶けてドロドロになって容器内に溜まる。

この流れを、炉心溶融、からの、メルトダウンといい、溶けた燃料を燃料デブリと呼ぶ。いずれもも、ニュースで一度は耳にした人も多いのではないだろうか。

 

このドロドロに溶けた燃料は当然めちゃくちゃ熱く、入っている容器を溶かして穴をあけてしまうほどだ。

 

そしてこの燃料を、事故後9年たつ今でも冷やし続ける必要がある。

冷やすために水を直接燃料に浴びせる。というか浸す。こうして放射性物質を含んだ「汚染水」が発生する。

(ここで不思議なのは、今なおどれくらいの熱が出ているのかに関する情報が出てこないことだ。安定させるために冷やすことが大切なのはよくわかったが、なぜ冷やす必要があるのかについての情報もあってほしいものだ。)

 

ほかにも、地下水が建屋に侵入して発生する汚染水もあるが、大抵は冷却によって発生する。

燃料デブリを冷やし続ける限り、「汚染水」の発生は収まらないのである。

 

この汚染水は、「ALPS(アルプス)」という装置で放射性物質を取り除き、「処理水」として東電敷地内のタンクに保管しているのが現状である。そして、このタンクがいっぱいになるというのが冒頭のニュースだ。

cles/000178556.ht

そこでこの処理水(汚染水ではない!)を、希釈して海に流すか、蒸発させて大気に放出するか、という議論が起こっているのである。

 

実はこの「処理水」は、厳密にはまっさらな水ではない。

 

ALPSは、ほとんどの放射性物質を取り除くことができるが、「トリチウム」という放射性物質のみどうしても残ってしまう。これを完全に取り除くことは技術的に困難だ。

 

しかしこのトリチウム、人体に対してはほぼ無害といっていいようだ。

 

トリチウムはほかの放射性物質と比べて非常に弱い放射線であるベータ線しか出さない。これは医療用のエックス線よりはるかに弱い。

その影響度は、セシウムの1000分の1だ。

 (放射線の種類や強さについてはこちら↓)

monono-aware.hatenablog.jp

 

しかも、食べ物や水を経由して口にしても、人体に取り込まれることなくほとんどが体外へ排出される。

そもそも、トリチウムを含む水は、原発の平常運転でも生まれるもので、原発事故以前から世界中で海に排出されてきた経緯がある。

処理水の無害性は、いろんなウェブサイトで解説されているので、興味がある人はぜひ調べてほしい。僕自身も、ほぼ無害だと認識している。

 

しかし、だからと言って、すべての人が海洋放出に納得するわけではない。

断言してもいいが、風評被害は必ず発生するだろう。

 

未だに福島に対する風評被害は続いている。

残念なことに、2019年の東京都民アンケートで、回答者の2割もの人が「福島県産品を避ける」と答えた。

多方面で、風評払しょくのために、多くの人、機関が尽力してきたにもかかわらずだ。

このような状況下で、福島県での海洋放出になぜ賛成できようか。

 

福島で発生したものは福島で処理しろと言われるかもしれない。しかし、処理水問題、廃炉問題、そして原発自体、本当に福島だけの問題だろうか。

 

一部の原発は再稼働している。宮城県女川原発も、国が自治体に再稼働同意の要請をした。

使用済み核燃料の行き先も処理方法も決まっていないのに、その解決策を未来の世代に先送りにしていいのだろうか。

 

どんなにテクノロジーが発達しても、核のゴミをゼロになんてできない。

小さな核燃料から莫大なエネルギーを、代償なしに取り出すことなんてできない。

そして、原発で生まれる電気を享受している僕たちは、もうこの問題を無視できないのだ。

 

福島は今、新たな風評の発生に直面しようとしている。

過去から学んで、未来に生かそう。僕たちにはそれができる。

 

明日で、震災から9年だ。